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3話

私が本当に何も覚えていないのだと分かると加藤は溜息をついて、説明を始める。「夕べは夏木課長の送別会だったでしょ」といわれ、それは覚えているので頷くと、「坂下先輩はその夏木課長が好きだったって、僕にグチりだしたんですよ」という答えが返ってきた。まさか、そこまでバラしているとは思わずにカーッとなる。夏木悟と私は同期入社だ。けれど、あっちの方は出世頭であっというまに課長に昇進して、今度も栄転してしまう。それでついでに結婚して奥さんと引っ越すということになったのだ。好きな人は遠くにいくわ、結婚されるわで、私は相当荒れていた。けれど、それを直の部下の加藤にグチっていたとは、なんたる失態!私が青くなったり、赤くなってりと、脂汗たらたらなのを見て、加藤がそっとつむじに口付けをしてくる。まるで情事の後に睦言のように。いや、この状況では実際にそうなんだけど。「それで、僕が坂下先輩に告白したんです。僕じゃあ、夏木課長の代わりになりませんか?」って。真剣な声音。その声を聞いた時に、ふっと昨日の消えた記憶の中でそのシーンだけがあざやかによみがえる。酔っ払った私を支えて店を出ながら、確かに加藤は言っていた。

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