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ラブサスペンス
![]() 5話 少しまどろんだ。気がつくと夜中になっていた。俺は暗闇で身体を起こし、手探りで彼女を探す。彼女は俺のすぐ隣で、膝を抱えて座っていた。そして驚いたことに、彼女は泣いていた。しくしくと、哀しそうにすすり泣いていた。「どうしたの?」やはりこの無理矢理な展開を受け入れてしまったことを後悔しているのだろうか。俺は不安になる。彼女はすすり泣きをつづけながら、無言で自分の腕時計を俺の顔の前にかざした。時計の針は三時ちょうどを指している。「ああ、そうか」俺はすぐに納得する。いまは、この場所で女子大生が殺されたという、深夜の三時なのだ。「殺された女の子のことを考えて、哀しくなったんだね?」俺がそう言うと、彼女はこくりとうなずいた。その優しさに、俺は感動に近い思いを覚えた。そして、これまで感じたこともないような、殊勝な気持ちになった。心霊研究サークルなんてものに入会して、これまで心霊スポットをめぐり歩いたりしてきたが、そんなことがとても馬鹿らしい、死者を冒涜する行為だったように思えてきた。俺はこれまでの自分の行為を反省した。―暗闇のどこかへ向って、俺はそっと手を合わせる。―「何してるの?」彼女が訊いた。「いや、殺された女子大生に祈ってるんだ。幽霊なんてものが本当にいるのかいないのか、それはわからないけど、もし彼女の幽霊がここでさまよいつづけているんなら、なんとか成仏して欲しいと思ってさ」すると彼女は、じっと俺の顔を見つめた。どこか、驚いたような表情。そして彼女は、俺には理解できない言葉を口にした。「そんなことしてくれたの、あなたが初めて…」その言葉の意味を訊ねようと、俺が彼女の顔を見返したときには―彼女はどこにもいなかった。影も形も見えなかった。そして暗闇の中で、「ありがとう」という言葉がぼんやりと響いた。 『心霊スポットで 』の一覧へ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ホテル掲載依頼 ![]()
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ラブサスペンス![]() 5話 少しまどろんだ。気がつくと夜中になっていた。俺は暗闇で身体を起こし、手探りで彼女を探す。彼女は俺のすぐ隣で、膝を抱えて座っていた。そして驚いたことに、彼女は泣いていた。しくしくと、哀しそうにすすり泣いていた。「どうしたの?」やはりこの無理矢理な展開を受け入れてしまったことを後悔しているのだろうか。俺は不安になる。彼女はすすり泣きをつづけながら、無言で自分の腕時計を俺の顔の前にかざした。時計の針は三時ちょうどを指している。「ああ、そうか」俺はすぐに納得する。いまは、この場所で女子大生が殺されたという、深夜の三時なのだ。「殺された女の子のことを考えて、哀しくなったんだね?」俺がそう言うと、彼女はこくりとうなずいた。その優しさに、俺は感動に近い思いを覚えた。そして、これまで感じたこともないような、殊勝な気持ちになった。心霊研究サークルなんてものに入会して、これまで心霊スポットをめぐり歩いたりしてきたが、そんなことがとても馬鹿らしい、死者を冒涜する行為だったように思えてきた。俺はこれまでの自分の行為を反省した。―暗闇のどこかへ向って、俺はそっと手を合わせる。―「何してるの?」彼女が訊いた。「いや、殺された女子大生に祈ってるんだ。幽霊なんてものが本当にいるのかいないのか、それはわからないけど、もし彼女の幽霊がここでさまよいつづけているんなら、なんとか成仏して欲しいと思ってさ」すると彼女は、じっと俺の顔を見つめた。どこか、驚いたような表情。そして彼女は、俺には理解できない言葉を口にした。「そんなことしてくれたの、あなたが初めて…」その言葉の意味を訊ねようと、俺が彼女の顔を見返したときには―彼女はどこにもいなかった。影も形も見えなかった。そして暗闇の中で、「ありがとう」という言葉がぼんやりと響いた。 『心霊スポットで 』の一覧へ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ホテル掲載依頼 ![]() #次のページ ![]() ![]() ![]() ![]() |