ラブサスペンス
現場百景5話
さて三人の浮気相手が発覚した妻を､男はとことん攻め立てた｡悲しげな顔で｢もうしない｣と謝る妻｡男は結局その言葉を信じ､妻を許してやった｡しかし三人の浮気相手がいるような場合､四人目がいないことのほうが珍しい｡案の定､妻には四人目の相手がいた｡それが発覚したのはこんな経緯からであった｡―｢○田くん､出張たのむよ｣例によって部長からそう仰せつかった男｡例によって駅へと向って朝の街を歩く｡煙草屋の角を曲がり､郵便局の横を過ぎて､駅へとたどりつく｡｢今回は携帯が鳴らないな｣どうやら今回ばかりはスムーズに出張へと出かけることになりそうだった｡しかし､｢まてよ…｣疑心暗鬼になり､限界まで神経の研ぎ澄まされていた男は､なにやら怪しげな雰囲気を感じ取った｡｢何かおかしい気がするぞ｣やがて男は決心し､自ら出張をとりやめ､家へと急ぎ帰った｡そっと玄関のドアを開けて､階段を上る｡男は静かに寝室のドアに手を掛け､中を覗き込んだ｡｢…だあ!｣またもベッドの上には裸の妻と裸の男｡しかも今回も二人はしっかりと『結合』している｡｢あ､あなたは!｣こちらを振り向いた浮気相手の顔を見て､男はびっくりした｡｢部長!｣そう､男の妻と結合していたのは､彼に本日の出張を言い渡した部長その人だったのである｡｢○田くんすまんね…ちょっと借りてるぞ｣いかなる場合にも部下に対して狼狽した素振りを見せまいという意識からか､窮めて尊大に部長は言う｡男は思わず｢はい部長｣と答えそうになったが､慌てて首を振ると､つかつかと部長の背後に詰め寄り､そのむき出しの尻をがつんと蹴飛ばした｡これまで部下に尻など蹴られたことのない部長は逆ギレしてこう叫んだ｡｢なにをするんだ○田くん､せっかくいま抜こうとしているのにそうやって後ろから押し込まんでくれたまえよ!｣―一瞬の沈黙の後､男はこう答えた｡｢はい部長…｣要するにもう､どうでもよかったのである｡
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